第104回薬剤師国家試験 総評

第104回 薬剤師国家試験 総評

第104回 薬剤師国家試験 総評

第104回国試は、科目により差はあるが、全体としての難易度は中等~やや難であった。103回と比較するとやや易しい問題が多かった。全体として、必須問題は「平易~やや平易」、理論問題は「やや難」、実践問題は「中等~やや難」であった。近年増加している実際の症例に基づいた問題は継続出題されていた。また、病院・薬局の外でも薬剤師としての職能を発揮すべき災害時医療のシチュエーションも出題され、より「問題解決能力」、「医療現場での実践力」を必要とする問題が出題されていた。実験考察問題、図表を用いて読解する問題も継続出題されており、「考える力」が求められている。また、106回から適用される「新出題基準」や「改訂コアカリ」を意識した科目の壁を超えた連問など「総合的な力」や「考える力」が必要な問題は継続して出題された。また、実務実習で体験して欲しい「代表的な8疾患」の問題は103回より多く出題され、臨床能力を問う問題が増加していた。既出問題の再出題も若干あったが、暗記ではなく応用力を必要とするアレンジも多かった。しかし、「必須問題」は得点しやすい基礎的な事項の出題が多いため、足切りにかかる学生は少ないと予想される。
*薬ゼミ自己採点システム2月25日付データより10,371名の入力情報をもとに作成

必須問題

必須問題は平易~やや平易の問題が多く、解きやすかったと思われる。既出問題のほぼ再出題(問58:心電図)や既出問題の知識を応用する問題(問2:有効数字の計算)など既出問題を学修・理解することで解答できる問題も多く出題されたが、生薬の主要成分を選ぶ問題(問10)、実務での計算問題(問85)などが必須問題に初めて出題された内容であった。また、耳の構造を模式図から判断させる問題(問11)、蜂窩織炎ほうかしきえんに関する問題(問63)、生命倫理の四原則についての問題(問79)など初出題の内容もあった。水剤のイラストを用いた鑑査問題(問87)のように実務実習の経験を問う問題も出題された。

理論問題

103回と同様に、やや難易度が高い問題であった。また、103回で物理と生物の2連問が出題されていたが、104回では、物理、生物、化学、衛生での4連問(問137~140:新生児マススクリーニング)が出題され、科目の知識を横断した学修や総合的な力が求められた。また、病態・薬物治療と薬理の2連問が3題出題され、処方・症例・症状・検査値などの共通リード文から、疾患についての知識と治療薬の作用機序について問う内容が出題された。例年通り、実験考察問題、計算問題、グラフや図を用いた問題も多く出題されていた。

実践問題

難易度は中等~やや難しい問題であった。理論問題と同様に、実践問題でも薬剤・薬理・実務の4連問が出題された。出題内容としては、直下型地震でのJMATやボランティアなど薬剤師の地震発生後の活動について問う問題(問324~325)、豪雨災害での避難所での薬剤師の対応を問う問題(問335)、麻疹ワクチンについて病院のお薬相談コーナーで対応する際の内容を問う問題(問218~219)、学校薬剤師として小学校で大麻について保護者に説明会を開く際の内容を問う問題(問238~239)など、幅広いフィールドで薬剤師が職能を発揮することに期待を込めた問題が多く出題されていた。

各科目総評

物理

[難易度]必須問題「やや平易」、理論問題「やや難」、実践問題(物理:「難」、実務:「やや平易」)
[必須問題]物理化学1題、分析化学3題、放射化学1題の出題であった。有効数字を理解した上で計算する問題(問2)や、93回に理論問題で出題された陽イオン交換樹脂における陽イオンの価数について問う出題(問4)があった。既出問題レベルの出題が多く、既出問題の理解度が問われる内容であった。
[理論問題]物理化学4題、分析化学5題、生体分子1題であった。物理化学は、文章をよく読み、知識を活用しないと解答できない問題(問95、98)があった。一方、分析化学は例年通り、日本薬局方の問題が多く(問92、93)出題され、既出問題の内容だけでなく、周辺知識も習得しておく必要があった。また、96回以前の既出問題の内容が出題されていた(問91、93、95)。
[実践問題]他科目の知識を必要とする問題(問197、205)、グラフから測定値を読み取る問題(問203、205)が出題されており、「考える力」や「複合的知識」が必要であった。出題は分析化学に偏っており、医療用検査器具(センサーなど)の測定原理に関する問題(問201)など、基礎知識を医療へ応用する意図が伺えた。
[全体]既出問題からそのままの出題はなく、計算問題、グラフ、スペクトルを用いた考える力を必要とする問題、他科目の知識を用いて解答を導く問題が出題されていた。今後も既出問題のキーワードを暗記するだけでなく、理解して解き、既出問題に出題されていた内容を応用できるようにする必要がある。

化学

[難易度]必須問題「平易」、理論問題「難」、実践問題(化学:「やや難」、実務:「平易」)
[必須問題]近年の傾向通り、構造式が多く出題されており、反応中間体の特性を問う問題(問6)や、安定な立体配座を選ぶ問題(問8)、ヒスタミンに含まれる複素環の構造を選ぶ問題(問9)などが出題された。また、必須問題として初めて、生薬の主要成分を選ぶ問題(問10)が出題された。
[理論問題]近年の傾向通り、全ての問において、構造を絡めた問題が出題された。化学反応においても単なる主生成物を問う問題ではなく、最も反応が早く進行する試薬を選ぶ問題(問104)など、考える力を必要とする問題が出題された。また、生体成分の構造に関する問題は2題出題されたが(問102、138)、生薬に関しては、例年とは異なり1題の出題であった(問108)。
[実践問題]化学は5題とも、構造を絡めた出題であった。リード文の意図を把握し、構造をみて答える問題(問211)、プロドラッグに関する問題(問213)など、考える力を必要とする問題が出題された。
[全体]すべての問題において構造が関連しており、暗記ではなく、構造を見て判断させる問題が出題されていた。生体成分の構造を絡めた問題など、既出問題の習得のみでは解答は難しく、「考える力」や「構造をみて判断する力」が要求される問題が多かった。純粋な化学反応の問題は少なかった。

生物

[難易度]必須問題「平易」、理論問題「やや難」、実践問題(生物:「やや平易」、実務:「中等」)
[必須問題]既出問題の理解により解答を導きやすい問題を中心とした出題であった。機能形態学1題、生化学2題、分子生物学1題、免疫学1題であり、微生物学からの出題はなかった。また、図や構造式を用いた問題は5題中2題であり、初出題である耳の構造を模式図から判断させる問題(問11)やRNAを構成するD-リボースの構造(問13)が出題された。
[理論問題]考える力を必要とする問題が多く出題された。機能形態学3題、生化学2題、分子生物学3題、免疫学1題、微生物学1題が出題された。図表を用いた問題が5題あった。このうち、実験考察問題として酵素の精製・活性測定(問112)、レポーターアッセイ(問115)、グラム染色(問117)が出題されており、与えられた情報を正確に理解し、推測する総合的な力が求められた。
[実践問題]機能形態学2題、生化学1題、免疫学1題、微生物学1題であり、分子生物学は出題されなかった。患者背景や病態、薬物の代謝に関する問題が多く出題されており、疾患が腎臓などに与える影響(問217)や嚥下及び誤嚥の過程(問220)、レボドパの代謝(問223)などが出題された。実務では、患者情報の総合的な判断により薬剤を選択する問題(問221、222)が出題された。
[全体]理論は例年より実験問題が多く出題され、図や実験などの与えられた情報から総合的に判断・考察する力が必要とされた。また、実践は患者背景や病態、薬剤に関する問題が出題され、他科目に関連する幅広い知識が求められた。

衛生

[難易度]必須問題「平易」、理論問題「やや平易」、実践問題(衛生:「中等」、実務:「中等」)
[必須問題]出題範囲の配分は健康:環境=5題:5題と偏りはなかった。問題内容は、例年通り、必須問題によく出題される範囲(食中毒、化審法、富栄養化)からの出題であった。また、高齢化を意識したロコモティブシンドロームに関しての出題(問19)、一酸化炭素に関する室内環境の基準値を数値で問う問題(問24)があった。
[理論問題]健康:環境=10題:10題でバランスの取れた出題であった。例年通り、図やグラフの情報を読み取る問題が4題(問123、132、133、140)、構造問題が3題(問118、119、127)であった。一方、計算問題は0題であった。104回では衛生が問118から開始されており、問137-140が新生児マススクリーニングに関する物理・化学・生物・衛生の複合的な問題であるのが特徴的であった。
[実践問題]健康:環境=4題:6題であった。現在の日本で起きている社会問題について出題された(問238)。大麻の検挙者数は近年の5年間で2倍(約4,000件)と急激に増加しており、104回でも大麻についての出題があった。輸液、食中毒、医療放射線、学校薬剤師に関しては例年通りの出題であった(問228、231、240、245)。
[全体]例年よりも既出問題の知識で解けるものが多かった。図や表を用いた問題の出題が例年通り多いが、多くの問題は事前に学修した知識を使うというよりは、問題文と図表を見比べて解くことが可能な「理解力」の求められる問題であるため、落ち着いて取り組めれば、得点源とすることが出来た。

薬理

[難易度]必須問題「平易」、理論問題「中等」、実践問題(薬理:「やや平易」、実務:「中等」)
[必須問題]既出薬物の作用機序を問うものが中心で、範囲は満遍なく出題された。特記として、問26(用量反応曲線)や問28(自律神経節遮断作用)では問題文の意味を咀嚼して正答を導く力が必要であった。問40(モルヒネの構造式)では構造式から作用機序を推定する力が求められた。
[理論問題]未出題薬物の作用機序を問う内容は15題中6題であり、例年に比べて少かった(103回では10題)。一方で、販売されて1年に満たないが、話題性が高い薬物(バロキサビル)の作用機序が問題(問158選択肢5の作用機序)されるなど、臨床現場の変化に応じた出題も見られた。さらに、病態・薬物治療と薬理の2連問が3題出題され、疾患と薬物を繋げて考える力が求められた。
[実践問題]ガイドラインから治療薬を選択させる問題(問254)や、注目度の高いニボルマブの出題(問258-259)など、臨床現場を強く意識した内容が中心であった。5年次の実務実習で学んだ知識をしっかりと活かせるかが問われていた。
[全体]既出問題において出題率が高い薬物だけでなく、話題性の高い未出題薬物に関する内容も出題され、学術的・臨床的知識をバランス良く問う内容であった。また、検査値から症例を読み解き、治療薬の作用機序・薬理作用へと繋げる問題も出題されているため、病態・薬物治療と薬理の両方の知識を活用する力が求められていた。

薬剤

[難易度]必須問題「平易」、理論問題「難」、実践問題(薬剤:「やや難」、実務:「やや平易」)
[必須問題]例年通りバランスの良い問題配分(薬物動態8題、製剤7題)であった。既出問題の知識を中心とした出題であり、万遍なく学修が進んでいれば得点できる問題が多かった。薬物動態の計算問題(問46)やグラフ問題(問47)は頻出のテーマであったが、製剤(問53)では切り口の工夫が見られた。
[理論問題]薬物動態学については既出問題で問われた知識を中心とした出題であった。一方、製剤学では図やグラフを読み取り考えることが必要な問題(問170、問172、問175)が多く、局方改定内容(問176)や実際の製品に繋がる問題(問177)など新しい内容も意識した出題であった。
[実践問題]腎障害患者(問264)や中毒時(問273、問275)の体内動態解析など、臨床現場を意識した問題が多数あった。また、近年の既出問題で出題されたテーマが継続出題(問271:嗜好品との相互作用、問280:基剤選択)された。
[全体]昨年と同様に、必須は既出問題の学修で高得点を期待できるが、理論と実践の難易度は高く、グラフと図の読解や考える力を要する計算問題が多数出題された。また、製剤学では実際の具体的な医薬品に関する出題が増加した。

治療

[難易度]必須問題「平易」、理論問題「やや難」、実践問題(病態・治療:「中等」、実務:「中等」)
[必須問題]病態・薬物治療が12題、情報・検定が3題の出題であった。新規疾患からの出題はほぼなく、基本的な問題が多く解答しやすい内容であった。しかし、精神疾患の詳細に関する問題(問62)、新規出題である蜂窩織炎ほうかしきえんに関する問題(問63)、添付文書の記載項目に関する問題(問67)などは、やや解答を導くのが困難であった。
[理論問題]病態・薬物治療が13題、情報・検定が2題と例年に比べて情報・検定の出題(103回では6題)が少なかった。また、薬理学との連問が3題出題されており、新コアカリを意識した構成となっていた。内容としては症候からの出題が2題と多く、それ以外は基本的な疾患からの出題が多かった。ただし、問190はナルコレプシーに関する問題であり、これまで既出問題としての詳しい出題がなく難易度の高い問題であった。
[実践問題]病態・薬物治療が9題、情報・検定が1題であり、例年に比較して情報・検定が少なかった。病態・薬物治療は基本的な疾患からの出題が多く解答しやすかったが、問294の糖尿病の運動療法に関してなどガイドラインベースで困難なものもあった。情報・検定は問303に一般的な検定法が出題されており、情報をしっかりと確認すれば正解を導くことは可能であった。
[全体]必須は正解を導きやすい問題が多かったが、理論・実践は一部、正解するのが難しいものもあった。情報・検定は全体で6題と例年に比較して少なかった。ナルコレプシーなどあまり出題のない疾患からの出題もあったが、概ね既出問題に出題されている疾患からの出題が多く、正解を導きやすかった。検定に関しても基本的なものが多く、例年のようなデータを判読する必要のある難問はなかった。

法規・制度

[難易度]必須問題「平易」、理論問題「中等」、実践問題(法規:「やや平易」、実務:「やや平易」)
[必須問題]出題範囲に大きな偏りはなかった。近年の既出問題からの関連知識で対応できるものがほとんどであったが、問79(生命倫理の四原則)は初出題であった。また、最近の傾向としては根拠法令を問う出題があり、問74(インフォームド・コンセント)で出題された。
[理論問題]既出問題の類似を含む問題が一定数あること、また新傾向についても落ち着いて臨めば正確な知識がなくとも判読できる問題となっており、比較的得点はしやすかったと思われる。103回から主となる出題範囲が変化してきており、医薬品医療機器等法の許可・承認、医療保険・介護保険などの出題がない反面、問145(病院の薬剤師数)のように、10年以上前に出題された内容が出題されている。
[実践問題]必須・理論で出題のなかった範囲の出題(医療保険・介護保険)や現場の薬剤師目線で必要な知識や倫理の出題があることは例年の傾向に近いが、新傾向の問題や科目の壁を越えている問題が増加した。また、実務については臨床現場での対応を中心に様々な知識を問う出題であったが、基本的な内容が多かった。ただ、問319は生物の知識からアプローチする新傾向の問題であった。
[全体]万遍なく様々な範囲から出題されているが、103回と同様に、既出問題から得られる知識と一般的な読解力で対応可能な問題であり、十分得点できた。薬剤師として必要性の高い範囲は、今後も繰り返し出題されると予想される。また、傾向には変化が見られ、臨床現場を意識した法規・制度や、様々な場面で薬剤師としての対応を求める実践的・倫理的な問題が増えていた。

実務

[難易度]必須問題「平易」、実践問題(実務の単問)「中等」
[必須問題]個人情報から計算問題まで幅広い出題範囲であった。特記事項としては、必須問題に初めて計算問題(問85)が出題された。また、実務実習の経験を問う問題であるイラストを用いた鑑査問題(問87)が出題された。
[実践問題]問題配分には偏りがあり、抗悪性腫瘍薬に関連する問題が7題、計算問題が6題、情報活用問題(添付文書情報や論文結果等を活用し解答を導く問題)が6題であった。特記事項は、出題内容の偏りと既出問題ベースだが問い方が工夫されていたことである。
[全体]必須問題は、8~9点は十分に得点できる難易度であった。問326~345に関しては、計算力や情報活用問題に対する対応力が求められる内容であった。今後もがん・感染症、計算問題、情報活用問題に関しては出題される可能性が高いと予想される。複合問題の実務では、薬剤師が臨床検査技師へ質問した意図は何かを問う問題、患者の副作用歴や同効薬の特徴を活用して解く問題、論文の一部を活用して解く問題、吸入剤のデバイス変更による指導内容の違いを問う問題など、実際の実臨床で想定されるシチュエーションが多く出題され、暗記すべき知識も必要不可欠であるが、状況判断能力(考える力・問題解決能力など)と実務実習の経験を活かして解くことが重要であった。また、実務領域で計算問題が7題出題された。今後の国家試験においても計算力を問う問題は継続して出題が予想されるため、国家試験勉強を開始する方は早期から実務領域の計算問題を継続して練習する必要がある。

合格基準についての補⾜

相対基準の導⼊は「第101回」から既に適⽤されております。
平成27年9⽉30⽇ 薬⾷発 0930 第17号より】

今回の「104回」からは、禁忌肢も加味されるようになりました。
平成30年8⽉31⽇ 薬⽣発 0831 第2号より】

しかし、薬剤師国家試験のあり⽅に関する基本⽅針【平成28年2⽉4⽇ 医道審議会薬剤師分科会 薬剤師国家試験制度改善検討部会】には、「当分の間、全問題への配点の65%以上であり、他の基準を満たしている受験⽣は少なくとも合格となるよう合格基準を設定する。」と記載があります。

「当分の間」が、今回の104回を含めているかは分かりかねます。

薬ゼミの模試で国試を読む!(薬ゼミ模試と第104国試の比較)

第104回 薬剤師国家試験 総評

第104回 薬剤師国家試験 総評【動画バージョン】

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