第106回薬剤師国家試験 総評

第106回 薬剤師国家試験 総評

第106回 薬剤師国家試験 総評

  • 全体として、106回の難易度は105回よりやや低かった。
  • 106回国試から適応された「新出題基準」の新規項目新傾向の問題が多く出題されていた
  • 科目の壁を超えた連問など「総合的な力」や「考える力」を必要とする出題が多くなっている
  • 物理・化学・生物・衛生は医療や臨床に関連した問題が多くなり、「改訂コアカリ」で求められている薬理、病態・治療、実務を絡めた問題も多く、薬理と病態・治療の2連問は4題出題されていた
  • 実務実習で体験して欲しい「代表的な8疾患」は、がんや感染症を中心に継続して多く出題されていた。また、薬剤師に求められる臨床現場での的確な対応や問題解決能力が備わっているかを判断する問題も多く出題されていた
  • 1つの問題に、多くの疾患名が列挙され、しっかり症例・処方を読まないと解答できない問題が多く出題されており、臨床で複数の合併症を有する患者に対応する実践力が問われる内容であった
  • 全領域で構造式、表図、グラフ、検査値を用いた問題が多く、それらを読み解く力が必要であった。また、遺伝子治療をはじめ遺伝子に関する問題も多く、指定感染症に使用された医療用マスクの廃棄やNDMAの混入製品の自主回収など、話題の事例に関する出題もあった
  • チーム医療やかかりつけ薬剤師、処方提案など、薬剤師の職能を発揮するための知識や判断力が求められていることを伺える内容もあった

*薬ゼミ自己採点システム2月22日データより、10,292 名の入力情報をもとに作成したもの

必須問題

  • 必須問題は、105回国試よりやや易化し、科目に差はあるが、必須問題全体として「平易」であった
  • 新出題基準からの新規項目は、妊娠・分娩関連薬及び眼疾患治療薬(薬理)、漢方(治療)などが出題されている
  • 新傾向としては、新型コロナ感染症を意識した指定感染症の治療・検査に使用された医療用マスクを廃棄する際の分類に関する問題(衛生)、DSU(医薬品安全対策情報)の表紙サンプルが提示されDSUを選ばせる問題(治療)、終末期医療に関するDNAR (実務)などが出題された
  • 構造式(化学はすべての問題に構造が関与)、図、グラフを用いた問題が物理、生物、薬剤、治療など多くの科目で出題されており、考える力が必要であった
  • 薬理や実務で、副作用関連の問題が多く出題された
  • 法規の範囲としては、満遍なく出題され、内容は易しかった
  • 既出問題の類似問題が出題はされているが、例年よりやや少なく、内容は易しかった

理論問題

  • 理論問題全体としての難易度は「中等」であった。薬剤は「難」、物理、化学、生物は、「やや難」であった
  • 連問は、104回国試の基礎4連問、105回の化学・生物・衛生による3連問(糖尿病に関する問題)に引き続き、化学・生物・衛生による3連問(ビタミンKに関する問題)が出題された。また、薬理・治療による2連問が4題(症例や処方を用いた問題)出題され、改訂コアカリで統一された科目間の繋がりを考えさせる問題であった
  • 新傾向では、薬理に新型コロナウイルスで話題のファビピラビルが初出題されている。また、法規にも4題新傾向の問題が出題されている
  • 化学、物理、生物、衛生などは、臨床を意識した問題が多くなっていた
  • 生物は、図表を用いた問題が多く、実験考察問題としてリアルタイムPCR法、血液型判定が出題され、与えられた情報を正確に理解し推測する総合力や考える力が求められた
  • 薬剤は、昨年と同様に、薬物動態は既出問題で問われた知識を中心とした出題で解答しやすい問題であったが、物理薬剤学・製剤学はグラフや表データの読解を要する出題が多数(5題)出題され、実際の実験データから試験結果を判断する難易度の高い新傾向問題があった
  • 新出題基準の新規項目は、治療に漢方や遺伝子治療が出題された

実践問題&実務

  • 実践問題は科目による差はあるが、全体としては105回国試より少し難易度が低く「中等」であった
  • 物理、化学、生物・実務では、MRI、避妊検査薬の検出メカニズムの図、AED使用時の処置の問題、話題となった事案(NDMAの混入製品の自主回収)に関する問題などがあった
  • 衛生では、高齢者の肺炎球菌ワクチンの問題や、HER2タンパク質やBRCA遺伝子変異と関連した再発性乳がんの問題など話題性のある問題があった
  • 法規では、難易度は高くないが、新傾向や新出題基準の新規項目が出題され、2018年春に施行された臨床研究法も出題されていた
  • 薬剤では、105回国試と同様に臨床現場の問題が多く、医薬品の知識だけでなく現場での情報分析・判断を必要とする内容なども出題されている
  • 治療・実務では、検査値だけでなく、心電図モニターの異常波形、CD4陽性リンパ球数と発症する疾患の関係を示す図、がんの発生に関するがん遺伝子パネル検査で作成した家系図などを元に問題を解く、思考力を必要する問題が多く出題されていた
  • 1つの問題に、解答に影響する疾患以外の多くの疾患名が列挙され、しっかり読み進めなければ、惑わされてしまう症例・処方問題が多く出題されており、臨床で複数の合併症を有する患者に対応する実践力が問われる内容であった
  • ここ数年出題されていた実践問題での4連問は、今回は出題されなかった

各科目総評

物理

総じて医療現場の現象と物理の基礎知識をリンクさせようという意図がうかがえた。出題としては、グラフ・イラスト・公式・構造式などから考えて解答する問題が多かった。今後も既出問題のキーワードを暗記するだけでなく、理解して解き、出題されている内容を応用できるようにする必要がある。

化学

必須、理論、実践を通し、構造から判断する問題、リード文から読み解く問題など、「考える力を必要とする問題」の出題が多く見られ、「知識を応用する必要のある問題」の出題が目立った。

生物

105回国試と比較して、必須の難易度は易化、理論は難化し、図表やグラフ、構造を用いた問題が多く出題された。実践生物は生物だけではなく、薬理や病態などの知識が必要であり、薬剤による代謝への影響を問う問題(問221、223)では「構造を見て判断する力」も求められた。

衛生

高齢化に伴い問題となる要介護者増加を防ぐための筋トレやロイシン配合サプリの効果を、表・グラフから読み取らせる問題、個人予防を目的とした予防接種法B類疾病に該当する高齢者への肺炎球菌ワクチンなど、近年の我が国で話題となった事例の出題が見られた。一方、既出問題の類似問題も多く、周辺事項を学修していれば解答しやすい問題も見られた。

薬理

全体として、難易度は平易~やや平易であった。国試の頻出内容を問う問題が多く、正答を導きやすい問題が中心であった。一方、新出題基準の内容や、実践問題においては医療系科目の繋がりを問う内容が満遍なく出題されているため、網羅的で科目横断的な学修が一層求められている。

薬剤

既出問題の知識を中心とした出題であるが、必須と理論では計算やグラフ・図の読解が必要な内容が多数出題されていた。実践では、実際の製剤の情報から分析・判断をする出題が増加している。既出問題の知識を暗記するだけではなく、理解・活用できることが求められている。

病態生理・薬物治療

全体的に解きやすい問題が多く、既出問題の知識を発展させて解答を出したり、症例、図などを読解することにより解答できたりする問題が多く出題された。
必須、理論では、新出題基準の新規項目である漢方や遺伝子診断などの出題もあり、一部解答が困難であった。実践は基本的な疾患からの出題が多くあり、症例、図を正確に読解できれば解答が可能な問題が多かった。

法規・倫理・制度

例年通り、薬剤師に関連する法規・制度の理解、倫理的な内容と判断、コミュニケーション能力など、薬剤師に必要な資質や医療現場を意識した内容が幅広く出題された。また、既出問題から得られる知識と一般的な読解力で対応可能な問題が多い傾向も継続しており、今回も得点しやすかったと考えられる。
今後も満遍なく、薬剤師として必要な事項が繰り返し出題されると予想される。

実務

必須問題、実践問題ともに解きやすい問題が多く出題された。新型コロナウイルスに関する問題は出題が無かったが、感染症の内容としてスタンダードなマスクや手指消毒などが出題された。イラスト問題では実務実習の経験を問う問題が出題され、今後も同様の傾向は継続すると予想される。

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