第102回薬剤師国家試験 総評
第102回薬剤師国家試験 全体総評
第102回薬剤師国家試験の難易度は、第101回より高く、第100回より少し低い「やや難」であった。 また、必須問題は「平易」、理論問題は「やや難」、実践問題は「中等」の難易度であった。例年以上に 「考える力」、「医療現場での実践力」、 「問題解決能力」が必要な問題が多く、より臨床的な問題になっていた。平成27年度入学者から、改訂モデル・コアカリキュラム(改訂コア・カリ)が使用されているが、薬剤師国家試験についても改訂コア・カリの内容を踏まえた基本方針が発表され、第101回から適応されている。
そのため薬理と病態・薬物治療の壁や自科目と他科目の壁を超えた総合的な力を必要とする問題が多くみられた。一方で、基礎的な事項や既出問題の内容を理解していれば得点できる問題も多く出題されている。また、必須問題は解答しやすい問題が多く、足切りにかかる受験者は少ないと予想される。 総合得点率は、第101回より低く69.8%であった。
*薬ゼミ自己採点システム 3月1日付データより 9,232名の入力情報をもとに作成
必須問題
必須問題は全体に「平易~やや平易」の問題が多く、解きやすかったと予想される。ただし 病態・薬物治療の情報(特に検定)の範囲について「やや難」の傾向がみられた。平均得点率は、第101回より現時点で高く85.0%であった。
理論問題
難易度は、第101回に比べ「やや難」であった。問194-195に病態・薬物治療と薬理の連問が出題されるなど、改訂コア・カリを意識したと思われる出題もみられた。例年通り、グラフや計算問題、化学の医薬品構造式に関する問題、薬理を中心とした新規出題薬物の問題が多く出題されていた。しかし、物理、生物、病態・薬物治療、法規・制度は難易度が高く、生物はsiRNA導入実験(問117)など理解力を必要とする問題が出題され、病態・薬物治療は情報・検定を含む症例の問題が多く出題された。法規・制度は、昨年に比べ難易度が高かった。全体的に理論問題は考える力が求められる出題が多かった。平均得点率は、59.0%で第101回より低い。
実践問題
「実践問題」の各領域と比較し、実務の範囲の方が解答を導きやすい問題であった。 図、グラフ、表などを読み解く、考える力を必要とする問題が多く出題された。現場で起こり得る事象を基にした実践的な問題や医療現場で話題性の高い内容が出題されていた。薬剤師が知らなければいけない科目を超えた総合的な知識と実務実習の成果を国家試験に繋げた勉強が求められた試験であった。また、 在宅医療(高カロリー輸液など)や介護(褥瘡など)などに関する問題が多く、厚生労働省が推進する「在宅医療」や「かかりつけ薬剤師」などを意識した問題が出題されている。平均得点率は、68.2%で第101回より低い。
第102回薬剤師国家試験 各科目総評
物理
難易度は、必須問題「やや平易」、理論問題「やや難」、実践問題(物理:「難」、実務:「中等」)であった。
必須問題は、物理化学3題、分析化学1題、放射化学1題であった。計算問題の出題はなく、第101回と同様に知識の確認をする問題が多かった。他科目の知識を必要とする問題もみられた。既出問題とまったく同じ出題はないため、暗記ではなく、理解する必要がある。
理論問題は、物理化学(5題)、グラフや文章から読み取る問題(問93、94)、計算問題などが難解であった。一方、分析化学(5題)は例年通り局方の問題が多く(問96、98、100)、既出問題を解くことで正答できる問題が多かった。
実践問題の物理領域は難易度が高く、例年より多い6題(物理化学1題、分析化学5題)が出題された。図から状況を判断して解答する問題(問198-199)、グラフを用いた問題(問200-201)、構造式を用いて考える問題(問204-205)が出題されているため、考える力や他科目とのリンクが重要であった。
全体として、既出問題からそのままの出題は非常に少なく、形式やアプローチを変えた形で出題されている。計算問題、グラフを用いた考える問題、深い知識が求められる問題、他科目の知識を用いて解答を導く問題が出題されており、全体を通じて難易度は高かった。今後も、既出問題を理解して解き、出題されている内容を応用できるようになる必要性がある。
化学
難易度は、必須問題「やや平易」、理論問題「中等」、「実践問題(化学:「やや難」、実務:「中等))であった。
必須問題は近年の傾向と同様、全ての問において構造式が出題されていた。シスプラチンの構造を選ぶ問題や、オゾンの構造を選ぶ問題など、構造そのものを問う出題であった。また生体成分であるアミノ酸の部分構造と関連させて塩基性の強さを問う問題(問10)もあった。
理論問題は近年の傾向と同様、生薬の1題以外は構造を絡めた問題であった。化学反応の問題は、単に反応生成物を問うのではなく、問103のように反応機構を理解した上で解答する問題も出題された。 問109は生薬の生合成の問題であったが、生合成経路名ではなく鍵化合物の詳細について問われた。
実践問題の化学は、例年より少なく4題であった。また生薬の問題(問213)以外は構造を絡めた出題であった。医薬品の作用機序を化学反応で問う問題(問207)やグルタチオン抱合体の構造を問う問題(問209)など、医薬品に化学反応を絡めた出題が見られた。
全体的に構造を絡めた問題、生体成分や医薬品を絡めた問題など、暗記ではなく、構造を見て判断させる問題が多く出題されていた。生薬は、既出の日本薬局方生薬ではなく、初出題が例年に比べ多かった。
生物
難易度は、必須問題「平易」は、理論問題「難」、実践問題(生物:「やや平易」、実践:「中等」)であった。
必須問題は、既出問題の内容を理解していれば解答を導きやすい問題であった。例年通り、模式図(消化器)や基本的な真菌の特徴が出題された。また、n-6系列脂肪酸の構造式から分類を判断させる問題(問12)が初めて出題された。問題は機能形態学、生化学、分子生物学、微生物学、免疫学から1題ずつ、偏りなく出題された。
理論問題は、近年では最も難易度が高かった。図や構造式などを用いた問題は5題あり、siRNA導入実験(問117)や移植片拒絶反応と遺伝子型に関する問題(問119)は初出題であった。既出問題の知識だけではなく、幅広い深い知識と文章の読解力、考える力が必要とされた。機能形態学が2題、生化学が2題、分子生物学が3題、免疫学が2題、微生物学が1題であった。
実践問題は、「バイオ後続品」、「エコノミークラス症候群」、「褥瘡」、「統合失調症」、「高カロリー輸液療法」などより実際の医療現場を意識した問題が出題された。実務では、褥瘡の治癒に応じて変化する処方薬を判断する問題が出題された。生物は、機能形態学の出題が多く(3題)、生化学が1題、分子生物学が1題であった。
全体的に第101回と比較して、必須の難易度は同等であり、理論・実践の難易度は難化した。既出類似問題が複数出題されているが、一方で、バイオ医薬品や褥瘡の問題にみられるように、今まで以上に医療を意識した幅広い深い知識が求められる問題が多く出題された。分野別では、機能形態学の出題が例年より多かった。
衛生
難易度は、必須問題「やや平易」、理論問題「中等」、実践問題(衛生:「やや平易」、実務:「平易」)であった。
必須問題は、構造の知識を問う問題が多く、10題中4題(問16、17、21、22)であった。毎年話題となった感染症などが出題されるが、今回は風疹やE型肝炎について2題(問18、19)が出題された。 既出問題は環境基準に関する問題のみであった。
理論問題は、計算問題が例年と比べて多く、4題出題された。法律に関しては、第101回に引き続き、新たに制定された食品表示法の内容に関しての出題があった。図を用いた問題が2題出題されており、考える力を要する内容であった。
実践問題は、既出問題を理解していれば解ける問題が多かった。「高カロリー輸液」、「予防接種」、「乱用薬物」、「医療廃棄物」、「話題性のある感染症(院内感染症や性感染症)」などが出題された。また、学校薬剤師に関する問題が2題と多かった。
全体的に、近年とほぼ同じ難易度であった。基本は既出問題の知識で解けるものではあるが、図表などでの出題が多いため、問題を解く前にまず問題文を理解することが重要である。衛生は生活と密に関わるため、話題性のある問題(問18、19、127、234、235、241)が多く出題されている。
薬理
難易度は、必須問題「平易」、理論問題「中等」、実践問題(薬理:「やや平易」、実務:「やや平易」)であった。
必須問題は、既出の薬物名及び作用機序を問うものが中心であった。薬の作用機序に関する問題は例年より多く(3題)が、その他の範囲は満遍なく出題されていた。またシルデナフィルと硝酸薬の相互作用(問28)、利尿作用を生体物質の変化で問う問題(問33)など新傾向の問題も出題されている。
理論問題は、未出題薬物の作用機序を問う内容も出題されている (8題)が、既出問題の内容を理解していれば正解を導ける問題がほとんどであった。また、例年出題されていたホルモンや抗悪性腫瘍薬に関する問題がなかった。また、化学構造から考える問題(問154)、薬理と治療との連問(問195)など、新傾向の問題があった。
実践問題は、現場を意識した内容が中心であり、薬理は満遍なく出題された。各連問では、初めの問題で正解を導けないと、次の問題も正解することが出来ないものが多く出題された(5連問)。新傾向では、検査所見から原因医薬品を推定する問題が出題された(問262-263)。
全体として、難易度はやや平易~中等であった。未出題薬物も出題されたが、既出薬物の作用機序を理解していれば正解できる問題であった。しかし、作用機序を今までと別の角度から問う問題や検査値を読み取る問題など治療との複合性が高い問題が出題されており、既出内容の徹底した理解と治療との壁をなくした学修が求められる傾向であった。
薬剤
難易度は、必須問題「やや平易」、理論問題「中等」、実践問題(薬剤:「中等」、実務:「やや難」)であった。
必須問題は、既出の知識を中心とした出題であり、例年通りバランスの良い問題配分(薬物の体内動態8題、製剤7題)であった。既出問題の知識が定着している学生には得点しやすい問題であった。また、薬剤では初めて化学構造を選択肢に使用した出題(問43)もあり、出題の切り口の工夫が伺える内容であった。
理論問題は、ほぼ10年前に出題された既出問題に類似したグラフ等の様式(問167、問171、問172)が多く、幅広く学習をしていた学生は得点しやすい問題であった。計算問題は2題(問171、問174)であり、出題数は例年よりも少なかった。また、物理薬剤学の範囲では物理化学(基礎)に近い内容の出題が見られた(問172、問174)。製剤学の範囲では17局改定内容についても触れた出題があった(問177、問178)。
実践問題は、現場で実際に使用されている薬物を中心とした出題であった。病院薬剤師の現場を想定した出題が多数(10連問中6連問)みられた。また、製剤学の範囲では17局改定内容について触れた出題があった(問283)。
全体的に、やや平易~やや難であった。必須問題と理論問題は既出問題における出題内容の理解、実践問題では現場で使用される薬剤についての知識を意識した出題傾向であった。計算問題は今回も出題されている。
治療
難易度は、必須問題「やや難」、理論問題「難」、実践問題(病態・治療:「中等」、実務:「やや難」)であった。
必須問題は、病態・薬物治療10題、情報・検定5題の出題であった。病態・薬物治療では問61の不安障害な
ど今まであまり出題されていないため、正答を導きにくいものがあった。また、情報・検定では、問68のt分布が新規の内容であり、問69は第97回に同様の出題があるが選択肢が改変されており解答を出しにくい問題であった。
理論問題は、病態・薬物治療11題、情報・検定3題、テーラーメード1題の出題であった。全体に病態・薬物治療の問題は、比較的正解しやすいものが多いが、問193の病態と生体リズムに関する問題など難解なものが含まれていた。また、情報・検定に関しては問188の検定手法を問う問題などが出題され、詳細を問う内容であり、難解であった。
実践問題の患者の症状より重症度を判定し薬物を選択する問題(問290)は、実践的な内容であった。問296などのブルーレターが発出されている薬物に関する内容は、医療現場を反映する問題であった。また、問302などのインタビューフォームの情報を利用して解答する難しい問題も出題されていた。
全体的に難易度が高かった。新規の疾患での出題はないが、今まで出題された疾患においても出題の傾向が変わり、より詳細な内容を問う問題が多かった。また、医薬品の副作用を問う問題も多く出題されており、より実践的な内容が増えている。情報・検定に関しては、検定法の選択など実践的なものが出題され難易度は高かった。
法規・制度
難易度は、必須問題「平易」、理論問題「やや難」、実践問題(法規:「中等」、実務:「平易」)であった。
必須問題は、9割以上得点することも可能であったと考えられる。出題傾向としては、偏りなく出題されており、内容は第97回以降の国試で既に出題されたものが多かった。新傾向の設問はなく、基本的事項が中心であった。
理論問題は、医薬品医療機器等法の問題が3割と多かったが、他の問題は偏りなく出題されていた。例年よりも解答し難い問題が増えており、半数以上の問題に1~2記述は新傾向又は10年以上前の既出問題の記述が見られた。なお、法改正の内容(問141)、リード文を意識して解く問題(問142、問145)は近年の傾向通りであるが、旧制度名が関係する問題(問148)は初めて出題された。
実践問題は、法規・制度は偏りなく出題されていた。様々な場面で薬剤師としての対応を求める問題が多かった。個人情報の保護に関する法律(問307)、CRCとしての役割(問322)は新規の内容が3~4記述含まれており、より深い知識や考える力が求められた。また、副作用報告に関する出題(問325)は、例年出題があったが、医薬品・医療機器等安全性情報報告書を用いた記入事項に関する内容は初めて出題された実践的な問題であった。
全体的に、近年の試験では最も難易度が高かった。必須問題の平易傾向は変わらないが、理論問題の難易度が上がっている。範囲は満遍なく出題される傾向は変わらず、内容については、既出問題中心の知識だけでは解答を導けない問題が増加している。また漬物製造工場における劇物の取り扱いに関する問題(問317)は、難解であった。
実務
難易度は、必須問題「平易」、実践問題(実務の単問)「中等」であった。
必須問題は、薬剤師業務の基本的用語~漢方の副作用と基礎的な内容、 病院や薬局に関する業務内容についての出題、既出問題に類似した内容が多く出題されており、得点しやすい問題であった。特定生物由来製品や血液汚染など血液関連問題が多く(3題)出題されている。また問90で新しい用語(MMSE)について出題された。
実践問題(実務)は、副作用・中毒関連が20問中6問、計算問題が4問、 注射・輸液関連が5問と出題範囲の偏りがあった。 また、解答するための情報を問題文中に記載し、その情報を活用する問題が6問と多く出題された。これは、考える力や問題解決能力を意識した出題であると思われる。
全体的に、必須問題は非常に得点しやすい問題が多かったが、実践問題(実務)は比較的得点しにくい問題も出題されたため、苦戦した学生も多いと予想される。しかし、既出内容の理解や計算問題・情報活用問題など新問への対応ができれば得点は伸びたと思われる。やはり実務実習の成果を問う問題が多い。